副業の記事を読むと、たいてい「月いくら稼げるか」で並んでいます。せどり、アフィリエイト、クラウドソーシング、休日のアルバイト。
ただ、この並べ方では抜け落ちるものがあります。雇われて働く副業かどうかで、法律の扱いが根本から変わります。
労働時間が本業と足し算されるか。ケガをしたときに労災が出るか。辞めたときに失業手当が出るか。全部この一点で決まります。稼げる額より先に、ここを知っておいたほうがいいと思いました。
分かれ目は、労働基準法が適用されるかどうか
根拠になる条文は1行しかありません。労働基準法38条1項です。
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
労働基準法 第38条第1項(e-Gov法令検索 2026年8月26日確認)
「事業場を異にする場合」には、事業主が違う場合も含みます。つまり本業の会社と副業先が別会社でも、労働時間は足し算されます。
ただしこれは、どちらも労働基準法が適用される働き方のときの話です。厚生労働省はこう書いています。
事業主、委任、請負など労働時間規制が適用されない場合には、その時間は通算されない。
厚生労働省「副業・兼業と労働条件」(2026年8月26日確認)
せどりも、アフィリエイトも、FXも、クラウドソーシングの請負も、誰かに雇われているわけではありません。だから通算されません。
| 副業の形 | 労基法の適用 | 労働時間の通算 |
|---|---|---|
| せどり・物販 | なし(自分の事業) | されない |
| アフィリエイト | なし(自分の事業) | されない |
| FX・投資 | なし(自分の資産運用) | されない |
| クラウドソーシング(請負) | なし | されない |
| 休日のアルバイト・パート | あり(雇用) | される |
通算されると、何が起きるのか
労働時間の上限は32条にあります。
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。 2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
労働基準法 第32条(e-Gov法令検索 2026年8月26日確認)
本業でフルタイムに働いている人は、この時点で1日8時間・週40時間をすでに使い切っています。
そこに副業のアルバイトを3時間入れると、合計11時間。超えた3時間は、まるごと法定時間外労働になります。
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1日8時間。ここで法定労働時間を使い切る
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3時間すべてが法定時間外。割増賃金の対象になる
割増賃金は誰が払うのか
37条は、法定時間外の労働に2割5分以上5割以下の割増賃金を義務づけています。1か月60時間を超えた分は5割以上です。
では本業と副業先、どちらが払うのか。厚生労働省のガイドラインはこう整理しています。
労働基準法上の義務を負うのは、当該労働者を使用することにより、法定労働時間を超えて当該労働者を労働させるに至った使用者であり、一般的には、通算により法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が、(中略)同法上の義務を負うこととなります。
厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A(2026年8月26日確認)
つまりあとから契約したほう、ふつうは副業先です。
ここに副業アルバイトの構造的な難しさがあります。副業先から見ると、本業がある人を雇った瞬間に時給に25%を上乗せして払う義務が生じます。時給1,200円の仕事なら1,500円です。
ケガをしたとき。労災は合算されます
雇われて働く副業には、労災保険が付いてきます。しかも2つの職場の賃金を合算して計算されます。
労災保険法1条に、この人たちの呼び名が定義されています。
事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)
労働者災害補償保険法 第1条(e-Gov法令検索 2026年8月26日確認)
給付の計算方法は8条3項です。
複数事業労働者(中略)に対して保険給付を行う場合における給付基礎日額は、(中略)当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎として、厚生労働省令で定めるところによつて政府が算定する額とする。
労働者災害補償保険法 第8条第3項(e-Gov法令検索 2026年8月26日確認)
本業の給料だけで計算されるのではありません。副業先の賃金も足したうえで、休業補償などの基礎になる日額が決まります。
労災認定そのものについても、厚生労働省は「1つの事業場のみの業務上の負荷を評価して業務災害に当たらない場合に、複数の事業場等の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定できるか判断します」としています。本業と副業の負荷を合わせて見るということです。
業務委託やせどりには、この保護がありません。ケガをしても自分の健康保険と貯金で対応することになります。
雇用保険は、1社にしか付きません
労災と違って、雇用保険は合算されません。
同時に複数の事業主に雇用されている者が、それぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。
厚生労働省「副業・兼業と労働条件」(2026年8月26日確認)
主たる賃金を受けるほう、つまり本業だけです。副業のアルバイトを辞めても、そこを理由に失業手当は出ません。
例外は65歳以上の人向けの制度です。厚生労働省は「令和4年1月より65歳以上の労働者本人の申出を起点として、一の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、二の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始されました」としています。65歳未満には使えません。
では業務委託のほうが自由なのか
労働時間の通算がなく、割増賃金の問題も起きない。自由に見えます。ただし労働基準法の保護も、まるごと無いということでもあります。
| 雇用(アルバイト等) | 業務委託・自分の事業 | |
|---|---|---|
| 労働時間の通算 | される | されない |
| 最低賃金 | 適用される | 適用されない |
| 割増賃金 | 支払い義務がある | 無い |
| 労災保険 | 使える(賃金は合算) | 無い(特別加入を除く) |
| 雇用保険 | 本業のみ | 無い |
| 時間の自由 | シフトに拘束される | 自分で決められる |
単価が同じに見えても、中身が違います。時給1,200円のアルバイトと、1時間あたり1,200円の業務委託は、同じ金額ではありません。後者には最低賃金の下支えも、労災も、休業補償もありません。
どちらが良いとは言えません。何と引き換えに何を得ているかを知ったうえで選ぶ。それだけです。
選ぶときの順番
指揮命令を受けるか、時間を拘束されるか。契約書の題名ではなく実態で決まります
1日8時間・週40時間を超える分は法定時間外です
割増賃金の義務は後から契約したほうに生じます。隠すと副業先が違反状態になります
労災も最低賃金も無い分、時給換算では割高でないと割に合いません
会社の許可制・届出制に引っかからないかを見ます
順番を逆にして、稼げる額から選ぶと、あとで働き方の制約に気づくことになります。先に形を決めてから、金額を比べる。
- 副業がアルバイトだと、本業に知られますか
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労働時間の通算があるので、副業先は本業の労働時間を把握する必要があります。本業側には住民税の経路で伝わることが多いです。詳しくは住民税の記事に書きました。
- せどりやアフィリエイトなら時間の制限はありませんか
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労働基準法上の制限はありません。ただし会社の就業規則に労務提供上の支障を理由とした規定があれば、そちらの対象にはなります。
- 副業先に本業のことを言わないとどうなりますか
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副業先が知らずに法定時間外労働をさせる形になり、副業先が労働基準法違反の状態になります。責任を負うのは会社側ですが、発覚したときに困るのは本人です。
- クラウドソーシングは業務委託ですか
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契約の形式は請負や委任が多いですが、実態で判断されます。時間を指定され、作業内容を細かく指示され、断る自由がないような働き方なら、雇用と判断される余地があります。
- 業務委託でも労災に入れますか
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特別加入という仕組みがあります。対象になる業種や働き方が決まっているので、厚生労働省の案内で自分が該当するか確認してください。
- 副業を2つ以上やってもいいですか
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法律上の上限はありません。ただし雇用の副業が2つになると、3つの職場の労働時間を通算することになります。管理はかなり難しくなります。
この記事で見た条文と資料
条文は2026年8月26日にe-Gov法令検索で原文を確認しました。厚生労働省の資料も同日に原文で確認しています。
わたしの副業はせどりとアフィリエイトなので、通算されない側です。だからこそ、雇用の副業に何が付いてくるのかを先に調べておきました。