退職代行の記事は、たいていどの業者がいいかの話です。この記事はそれをやりません。
理由は2つあります。わたしは使ったことがありません。それと、業者選びより先に確認したほうがいいことが、お金の面にいくつもあるからです。
使うなと言っているのではありません。使う前に、失うお金と取り返せるお金を把握しておいたほうがいいという話です。
そもそも、辞めるのに代行が要るのか
法律のうえでは、辞めることに相手の同意は必要ありません。民法にこう書いてあります。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条第1項(e-Gov法令検索)2026年8月26日確認
期間の定めのない雇用なら、申し入れてから2週間で終わります。会社が認めるかどうかは関係ありません。
つまり「辞めさせてくれない」の正体は、多くの場合辞められないではなく伝えられないです。代行が売っているのは、この伝えるという行為です。
ここを分けて考えると、自分に必要なものが見えてきます。
運営主体で、できることが変わります
退職代行には3つのタイプがあります。違いは交渉ができるかどうかです。根拠になる条文が2つあります。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)2026年8月26日確認
労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。
労働組合法第6条(交渉権限)2026年8月26日確認
この2つの関係が、運営主体でできることが変わる理由です。
| 運営主体 | 根拠 | できること |
|---|---|---|
| 民間の会社 | — | 退職の意思を伝える |
| 労働組合 | 労働組合法6条 | 組合員のために交渉できる |
| 弁護士 | 弁護士法72条の対象外 | 交渉・請求・訴訟 |
ここが効いてくるのは、お金の話が絡んだときです。
お金の話は、ぜんぶ「交渉」です
退職に伴って出てくるお金は、たいてい相手と話をつける必要があります。
- 有給休暇を消化して辞めたい — 日程の調整が要る
- 未払いの残業代がある — 金額の確認と請求
- 退職金の支払い — 規程の確認と請求
- 会社から損害賠償を言われた — 対応が要る
どれも「伝える」だけでは終わりません。民間の会社に頼んだ場合、この部分を扱えるかは運営主体の問題として残ります。契約する前に、どこまでやってもらえるのかを書面で確認してください。
確認すること① 離職理由は、代行では変わりません
ここがいちばん金額に効きます。
自己都合か会社都合かは、離職票にどう書かれるかで決まります。代行業者が決められるものではありません。
| 自己都合 | 会社都合 | |
|---|---|---|
| 給付制限 | 原則1か月(2025年4月1日以降の離職) | なし |
| 所定給付日数 | 10年未満なら90日 | 年齢と加入期間しだいで最大330日 |
45歳で20年勤めた人なら、自己都合150日 / 会社都合330日です。倍以上ちがいます。
確認すること② 有給が何日残っているか
有給を消化できるかどうかで、手取りが変わります。
考え方は単純です。
- 有給で得られる額 = 残日数 × 1日あたりの賃金
- 月給30万円で月20日勤務なら、1日あたり1万5,000円
- 残20日なら30万円。代行費用と比べれば、判断の材料になります
ここは交渉が要る領域です。運営主体の話が、そのまま金額に直結します。
確認すること③ 辞めたあとに来る支払い
代行費用を払って辞めたあと、さらに支払いが来ます。
- 国民年金 月17,920円(令和8年度)
- 健康保険(任意継続は資格喪失日の翌日から20日以内)
- 住民税(前年の所得にかかる。収入ゼロでも来る)
失業手当の初回振込は、自己都合なら手続きからおよそ2か月後です。代行費用は、その空白の前に出ていきます。
使う前に見るところ
民間の会社か、労働組合か、弁護士か。サイトのどこかに必ず書いてあります。書いていないなら、それ自体が判断材料です。
有給の交渉、未払い賃金の請求、退職金。含まれるのかを契約前に文字で確認します。
会社都合にできると断言されたら、根拠を聞いてください。離職理由は離職票の記載で決まります。
有給の残日数×日給。この金額と代行費用を比べます。
よくある質問
- 退職代行を使わないと辞められませんか?
-
法律のうえでは、期間の定めのない雇用なら申し入れから2週間で終了します(民法627条1項)。会社の同意は要件ではありません。代行が担うのは、伝えるという行為です。
- 民間の会社と労働組合と弁護士、何が違いますか?
-
交渉ができるかどうかです。労働組合法6条が労働組合に交渉の権限を与えています。弁護士は弁護士法72条の制限を受けません。民間の会社については、どこまで対応できるのかを契約前に書面で確認してください。
- 代行を使えば会社都合にしてもらえますか?
-
離職理由は離職票の記載で決まります。代行業者が決められるものではありません。断言されたら根拠を確認してください。
- 有給は必ず消化できますか?
-
日程の調整が必要になるため、交渉の領域です。運営主体によって対応できる範囲が変わります。
- 費用の相場はいくらですか?
-
この記事では金額を載せません。各社で変わり、確認した日と食い違うと誤解のもとになるためです。公式サイトでご確認ください。
- このサイトは退職代行をすすめますか?
-
すすめません。わたしが使ったことがないためです。使うなとも言いません。使う前に確認することを書いています。
まとめ
- 期間の定めのない雇用は、申し入れから2週間で終了する(民法627条1項)
- 代行が売っているのは「伝える」という行為
- 交渉ができるかは運営主体で変わる。根拠は弁護士法72条と労働組合法6条
- 有給・未払い賃金・退職金は、すべて交渉の領域
- 離職理由は代行では変わらない。離職票の記載で決まる
- 有給の残日数×日給を出して、費用と並べて考える
辞めるかどうかも、代行を使うかどうかも、自分で決めることです。決める前に、動くお金を並べておいてください。
この記事で確認した出典
- 民法第627条第1項(e-Gov法令検索)2026年8月26日確認
- 弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)(e-Gov法令検索)2026年8月26日確認
- 労働組合法第6条(交渉権限)(e-Gov法令検索)2026年8月26日確認
- ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」2026年8月26日確認
- 岩手労働局・群馬労働局「令和7年4月1日以降に離職された方は『給付制限期間』が1か月に短縮されます」2026年8月26日確認
- 日本年金機構「国民年金保険料」(令和8年度 月額17,920円)2026年8月26日確認

コメント