「転職エージェントは使わない方がいい」。この言葉で検索した結果を見ると、上位に並ぶのはエージェント自身のサイトでした。自社を使わない理由を、自社が説明している。
僕は反対側にいました。採用の責任者として2年、約500人を書類から最終面接まで見て(人数は概算です)、エージェントには1人60万〜100万円払っています。使わないほうがいい場面が、たしかにあります。3つ挙げます。
先に、その費用は誰が払っているのか
求職者は無料です。親切だからではありません。職業安定法32条の3第2項が「求職者からは手数料を徴収してはならない」と定めています。払っているのは企業です。
僕の会社は理論年収の35%で契約していました。理論年収は基本給×12か月で計算します。賞与は入りません。ここは契約によって違いますが、20〜35%あたりが多いと思います。
| 提示する年収 | 手数料(35%) | 企業の初年度の負担 |
|---|---|---|
| 400万円 | 1,400,000円 | 5,400,000円 |
| 500万円 | 1,750,000円 | 6,750,000円 |
| 600万円 | 2,100,000円 | 8,100,000円 |
| 800万円 | 2,800,000円 | 10,800,000円 |
この表が、これから書く3つ全部の背景になります。企業は年収だけを見ていません。年収+手数料で予算を組んでいます。
① 年収交渉を、自分の手でやりたい人
提示額を100万円上げると、企業の負担はいくら増えるでしょうか?135万円です。年収に100万、手数料に35万。
直接応募なら、この35%がありません。同じ予算枠で、年収の側に回せる余地があります。実際、そこを見て提示を決めた場面が何度もありました。
ただし条件があります。自分で交渉できること。エージェント経由なら担当者が代わりに言ってくれます。直接応募では、金額の話を自分で切り出すことになります。ここができない人が直接応募を選ぶと、手数料ぶんの余地はそのまま企業に残ります。
相場を知らないまま交渉するのも危ない。手数料が無いぶん高く出せるという理屈は、こちらが黙っていれば発動しません。
② 行きたい会社が、もう決まっている人
エージェントが出せるのは、そのエージェントと契約している会社の求人だけです。当たり前ですが、意外と見落とされます。
うちも全部の求人をエージェントに出していたわけではありません。自社の採用ページにしか置いていない募集がありました。急ぎではない職種、通年で細く募集している職種はそうなります。手数料を払わずに採れるなら、そのほうがいいからです。
会社名が決まっているなら、まずその会社の採用ページを見てください。エージェントに聞いて「その求人は扱っていません」と言われた会社が、自社サイトでは募集していることがあります。
③ 社内に知っている人がいる人
リファラル、つまり社員紹介です。手数料がかかりません。採用側から見ると、これがいちばん通しやすい経路でした。
- 費用が出ない。60万円を回収する根拠が要らない
- 社内の人が「この人はうちに合う」と言っている。判断材料が1つ多い
- 辞めにくい。中で知っている人がいるぶん、入ってからの落差が小さい
3つめは採用側の本音です。60万円払って3か月で辞められるのが、いちばん痛い。紹介経由はそこが起きにくいので、多少の要件不足は目をつぶることがありました。
前職の同僚、取引先、学生時代の知人。行きたい会社に1人でも知っている人がいるなら、そこから当たるのが最短です。
使わないなら、どこから応募するか
経路は5つあります。採用側から見ると、届いたときの扱いが少しずつ違いました。
| 経路 | 企業が払う費用 | 採用側から見ると |
|---|---|---|
| 自社の採用ページ | 0円 | いちばん熱量が高いと見ます。うちを名指しで来ているので |
| 社員紹介(リファラル) | 0円〜紹介手当 | 判断材料が1つ多い。通しやすい |
| 求人媒体(掲載課金) | 掲載料。1人あたりではない | 採用人数が増えるほど1人あたりが下がる |
| ダイレクトリクルーティング | 利用料+成功報酬 | エージェントより安いことが多い |
| ハローワーク | 0円 | 費用がかからないので、要件を広めに出せる |
自社の採用ページから来た人は、志望度が高いと見ます。求人サイトを流し見して応募した人とは、最初の印象が違いました。会社名で検索して、採用ページまでたどり着いている。それだけで一段違います。
ハローワーク経由も、費用が出ないぶん要件を緩めやすい経路です。求人票の書き方が固いので敬遠されがちですが、同じ会社が媒体とハローワークの両方に出していて、条件が違うことがあります。
交渉するなら、いつ言うか
年収の話をどこで出すか。内定を出したあとが、いちばん通ります。
理由は単純です。選考の途中は、まだ他の候補者と比べています。金額の話を先にされると、比べる材料が1つ増えるだけです。内定を出したあとは、もうその人に決めている。ここから採用をやり直す手間を考えると、多少の上乗せは飲みます。
使う側に回ると決めたなら、面談で年収レンジを先に聞いてしまうのが早い。求人票に出ていない金額が、そこで初めて出てくる。登録は無料。
逆に、使ったほうがいい人
3つ挙げましたが、僕はエージェントを使い続けていました。払う価値があったからです。使ったほうがいい人も書きます。
| こういう人 | 理由 |
|---|---|
| 在職中で、時間が取れない | 日程調整と書類の往復を代わりにやってもらえる。ここがいちばん重い |
| 業界や職種を変える | 相場が分からないまま交渉すると、低く決まります |
| 書類を直してもらいたい | 求人票の要件に合わせて書き直す作業を、外から見てもらえる |
| 非公開の求人を見たい | 公開すると応募が殺到する求人は、エージェントにだけ出します |
4つめは実在します。募集していることを知られたくない職種、たとえば現職者の後任を探すときは、公開求人には出しません。ここはエージェントを通さないと届きません。
併用するなら、1つだけ気をつける
直接応募とエージェント経由の両方から、同じ会社に出す。これはトラブルになります。
企業側では応募者を氏名で管理しています。同じ人が2つの経路から来ると、手数料を払うかどうかで揉めます。先に来たほうを取る運用が多いですが、契約次第です。
よくある質問
- 直接応募のほうが年収は上がりますか
-
上がる余地はありますが、自動的には上がりません。企業は年収と手数料を足した額で予算を見ているので、手数料が無ければその分の余白ができます。ただし交渉しなければ、その余白は企業に残ります。
- エージェントは年収を上げる交渉をしてくれますか
-
手数料が年収に連動するので、上げる動機はあります。理論年収の35%なら、年収が100万円上がれば手数料も35万円増えます。利害は一致しています。
- エージェント経由だと不利になりますか
-
経路によって企業のコストが変わるので、判断の基準は変わります。書類の中身が同じでも結論が変わることはあります。ただ、非公開求人や日程調整の代行など、経由することで得られるものもあります。
- 複数のエージェントを使ってもいいですか
-
問題ありません。ただし同じ求人に別々のエージェントから応募すると、上に書いたのと同じことが起きます。どの会社にどこから出したかは、自分で記録しておいてください。
- リファラルで入ると、条件が下がりませんか
-
うちでは下げていません。手数料が浮いたぶんを提示に回すこともありました。ただし会社ごとに制度が違います。
出典
条文は2026年4月1日施行のものを2026年9月5日に確認しました。手数料の率と人数は、僕がいた会社の実績です。他社に当てはまるとは限りません。面接した人数は本人の概算です。
次に読むもの
- 書類選考に落ちる理由を、60万円払っていた側から書きます
- 転職エージェント経由の応募で、採用側が最初に見る3つ
- 特化型の転職エージェント10社を、採用担当2年の僕が格付け
- 20代の転職エージェント5社、求人数より担当の付き方で選ぶ
上の3つに当てはまらないなら、使ったほうが早いです。選ぶべきは会社の数より、要件を正しく聞ける担当者のほうでした。推薦文が的を射ていた担当は、通過率がはっきり違いました。
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