退職代行に依頼したら、会社が有給消化を認めないと言ってきた。この相談は多い。ただ、条文を読むと会社側の言い分には限界がある。拒否できる条件が、そもそも成り立たないことが多いからだ。
僕は採用担当を2年やって、辞める連絡を受ける側の窓口にもいた。「有給は認めない」と現場が言い出す場面を、実際に見ている。そのあと社内で何が起きたかも書く。
※ 広告を含みます。法令は e-Gov 法令検索の原文を2026年9月10日に確認しました。個別の事案の判断は労働基準監督署・弁護士にご相談ください。
条文はこれ1つ。ただし後半が効く
有給をいつ取るかを決めているのは、労働基準法39条5項だ。
前半で、休む日を決めるのは労働者だと書いてある。これが時季指定権だ。後半のただし書きが、会社の時季変更権になる。
ここで読み落とされやすいのが、後半の書き方だ。「他の時季にこれを与えることができる」。与えないことができる、とは書いていない。会社にできるのは、別の日にずらすことだけだ。
ここが要点になる。退職日までの残り日数を全部有給に充てているなら、ずらす先が存在しない。ずらす先が無いのだから、時季変更権を使えない。会社が「認めない」と言っても、条文が用意した手段の外にある。
会社側で実際に何が起きるか
窓口にいた側から書く。「有給は認めない」という言葉が出るのは、たいてい現場の上長からだった。総務や人事からではない。
引き継ぎが終わっていない、繁忙期だ、という理由。感情の部分が大きい
ここでたいてい話が変わる。時季変更権の要件を満たさないと分かる
引き継ぎ資料の提出を条件にする、最終出社日をずらす、といった調整
争って得るものが会社側に無い
2つめで止まる会社が多かった。総務は分かっている。拒否を続けると労働基準監督署の話になり、そのコストのほうが高い。だから、社内で条文を確認した時点でだいたい決着する。
つまり、拒否されたときに要るのは、争うことではない。総務・人事に条文の話が届くようにすることだ。現場の上長で止まっていると、話が進まない。代行を使う価値がここにある。窓口を人事に移せる。
「事業の正常な運営を妨げる」は、どこまで認められるか
時季変更権の要件は2つある。両方そろわないと使えない。
- 事業の正常な運営を妨げること — 単に忙しい、人手が足りないだけでは足りないとされている
- 他の時季に与えられること — ずらす先が存在すること
退職時に問題になるのは2つめだ。1つめを会社が主張できたとしても、ずらす先が無ければ結論は変わらない。2つの条件は、どちらか一方では足りない。
逆に、在職中の有給申請なら話が別になる。繁忙期に長期で申請したときに、別の週へずらされることはありうる。退職時と在職中で、同じ条文の効き方が変わる。ここを混ぜて読むと、話がかみ合わなくなる。
残日数を先に確定させる
拒否されたときの争点は、実は「取れるかどうか」ではないことが多い。何日残っているかでずれる。
付与日数は勤続年数で決まっている。労働基準法39条の表がそれだ。
| 勤続年数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 付与日数(週5日勤務) | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
有給の時効は2年だ。労働基準法115条の「賃金の請求権を除く」側にあたり、当分の間の短縮の対象にもならない。つまり、前年の繰越と当年の付与で、最大40日たまる。
会社の管理表と自分の計算が合わないことは、実際にある。給与明細に残日数が出る会社なら、それを保存しておく。退職代行に依頼する前にスクリーンショットを撮っておく。あとから請求すると、時間がかかる。
代行の種類で、できることが変わる
ここが結果を分ける。有給消化は「協議」になるので、伝えるだけでは足りないことがある。
| やりたいこと | 民間の代行 | 労働組合 | 弁護士 |
|---|---|---|---|
| 有給を消化したいと伝える | ○ | ○ | ○ |
| 残日数について会社と協議する | × | ○ | ○ |
| 拒否されたときに交渉する | × | ○ | ○ |
| 未払い分を請求する・争う | × | × | ○ |
| 損害賠償を言われたときに対応する | × | × | ○ |
民間の業者は、伝えることまでしかできない。会社が拒否してきたときに、そこから先へ進めない。拒否されそうな見込みがあるなら、最初から労働組合型を選ぶ。料金の差は数千円で、途中の乗り換えより安く済む。
損害賠償や懲戒の話が出たら、そこは弁護士型の領域になる。労働組合型でも対応できない。
消化中の給与はいくらになるか。3つの決め方がある
有給を取った日の賃金は、会社が勝手に決められない。選べる型が3つ、条文で決まっている。
| 型 | 計算 | 高くなりやすい人 |
|---|---|---|
| 通常の賃金 | 出勤したものとして、いつもどおりの給与 | いちばん多い型。手当が付いたまま計算される |
| 平均賃金 | 直前3か月の賃金総額 ÷ 総日数(労働基準法12条) | 残業が多かった人。ただし総日数で割るので下がることもある |
| 標準報酬日額 | 標準報酬月額 ÷ 30。労使協定が要る | 採用している会社は少ない |
どれになるかは就業規則に書いてある。会社が案件ごとに選べるわけではない。「有給の日は基本給だけ」と言われたら、規則を確認する理由がここにある。通常の賃金なら、通勤手当以外の手当も乗るのが原則だ。
日給や時給で働いている人は、通常の賃金の出し方が施行規則25条に書いてある。時間給なら「その金額にその日の所定労働時間数を乗じた額」、月給なら「月給を月の所定労働日数で割った額」。1日あたりがいくらか、自分で計算できる。
退職日と最終出社日は、別に決める
有給を全部消化するなら、カレンダーの引き方が要る。ここを間違えると、日数が足りなくなる。
給与明細か勤怠システムで確認。最大40日
引き継ぎが終わる日。ここまでは出社する
土日祝は有給を消費しない。日数のカウントは営業日で数える
月末にするかどうかで、社会保険料と住民税の扱いが変わる
4つめを見落とす人が多い。月末退職か、月末より前かで、社会保険料の負担月数が変わる。資格を失うのは退職日の翌日なので、月末に辞めるとその月の保険料まで引かれる。前日に辞めれば1か月ぶん軽くなるが、その分は自分で国保に入る。
どちらが得かは金額しだいだ。1日ずらすだけで数万円動くことがある。退職代行に日付を伝える前に、ここを決めておく。
会社が出してきた拒否の理由と、その先
窓口にいたとき、実際に出てきた理由は3つに集まっていた。それぞれ、条文に照らすとどうなるか。
| 会社が言うこと | 条文に照らすと |
|---|---|
| 引き継ぎが終わっていない | 有給を与えない理由になりません。時季変更権の要件は「事業の正常な運営を妨げる」ことと「他の時季に与えられる」ことの2つで、引き継ぎの未了はそれ自体では要件を満たしません |
| 繁忙期だから | 在職中なら別の時季へずらす根拠になりえます。ただし退職日が決まっているなら、ずらす先がありません |
| 就業規則で退職前の有給を認めていない | 労働基準法は最低基準です。13条により、法律に達しない労働条件を定めた部分は無効になります |
3つめを言われたときがいちばん分かりやすい。就業規則で法律を下回ることはできない。ここを書面で言ってきたなら、それはむしろ材料になる。
ただ、正論をぶつけて勝つ話にしないほうがいい。会社が引きたいのは、たいてい面子の部分だ。引き継ぎ資料を先に渡す、貸与品を先に送る。感情の材料を減らすと、話は早く終わる。
拒否されたときの順番
- 書面かメールで、時季指定を出す — 「◯月◯日から◯月◯日まで、年次有給休暇を取得します」。日付を明記して記録を残す
- 窓口を人事・総務にする — 現場の上長で止まっていると条文の話が届かない。代行はここで効く
- 会社の回答を書面でもらう — 拒否の理由を文字で出させる。「事業の正常な運営を妨げる」とだけ書かれても、ずらす先の提示が無ければ要件を満たさない
- 労働基準監督署に相談する — 39条違反として動ける。無料。会社名を出さずに一般相談から始めてもいい
1つめが抜けると、あとで「請求されていない」と言われることがある。口頭は残らない。代行に依頼していても、時季指定は本人名義で出せる。
4つめまで行くことは、僕が見た範囲では多くなかった。3つめで会社が理由を書けずに、消化に落ち着く。
消化と買い取り、どちらを選ぶか
有給の買い取りに、法律上の義務は無い。労働基準法の原文に「買取」「買上」という語は1つも出てこない。検索して確認した。
ただ、退職時は交渉の余地がある。僕は自分が辞めるとき、買い取り制度の無い会社に自分から提案した。退職日まで働く代わりに、残っていた40日を最低賃金でいいから買い取ってほしい。結果は392,000円だった。
| 全部消化する | 買い取りを交渉する | |
|---|---|---|
| 金額 | 通常の賃金で計算される(労働基準法39条9項) | 会社との合意しだい。最低賃金での提示もありうる |
| 会社の義務 | ある | 無い |
| 会社側の受け取り方 | その日から出社しない | 引き継ぎ期間が延びる。会社に利がある |
| 代行で扱えるか | 労組・弁護士なら協議できる | 同じ。民間の業者は入れない |
金額だけで見れば、消化のほうが有利になることが多い。消化なら通常の賃金で計算されるからだ。買い取りは合意額で、最低賃金でも違法ではない。
それでも僕が買い取りを選んだのは、辞める時期を自分で決めたかったからだ。金額の最大化とは別の理由がある人もいる。実額の出し方は別の記事に書いています。
よくある質問
- 会社が有給消化を認めないと言っています
-
労働基準法39条5項のただし書きは「他の時季にこれを与えることができる」と書いています。退職日が決まっていてずらす先が無いなら、この手段は使えません。書面で時季指定を出し、拒否の理由を書面でもらってください。
- 引き継ぎが終わっていないと言われました
-
引き継ぎは有給を与えない理由になりません。ただし現場の心証には効きます。引き継ぎ資料を作って渡してから消化に入ると、話が早く進みます。
- 退職日はいつにすればいいですか
-
残日数を全部消化できる日付を逆算します。最終出社日と退職日は別で構いません。社会保険料と住民税の扱いが月末退職かどうかで変わるので、そこも合わせて決めてください。
- 民間の退職代行でも有給消化はできますか
-
伝えることはできます。ただし会社が拒否してきたとき、そこから交渉に入れません。弁護士法72条の線があります。拒否されそうなら労働組合型を選んでください。
- 有給の残日数が会社の管理表と違います
-
給与明細に残日数が出る会社なら、依頼前にスクリーンショットを保存してください。付与は勤続年数で決まっており、時効は2年です。前年の繰越と合わせて最大40日になります。
- 有給を買い取ってもらえますか
-
法律上の義務はありません。労働基準法に「買取」という規定はありません。退職時に限れば交渉の余地がありますが、金額は合意しだいです。消化できるなら消化のほうが金額は大きくなります。
- 消化中に転職先で働けますか
-
在籍中なので、就業規則の副業規定にかかります。二重就労は労働時間の通算の問題も出ます。開始日は退職日の翌日にしておくのが安全です。
この記事で確認した資料
有給の金額の出し方と、退職金の扱いは別の記事にまとめてあります。