一人社長の出張日当は、相場でしか根拠を作れません

一人社長の出張日当は、相場でしか根拠を作れません

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一人社長が出張旅費規程を作るとき、最後に止まるのが日当をいくらにするかです。検索すると「相場は3,000円」「5,000円」といった数字が並びます。

その数字はどこから来ているのでしょうか?なぜ相場を見るしかないのかを説明した記事が、見当たりません。条文と通達を原文で読むと、理由がはっきり書いてあります。

この記事は所得税法(e-Gov法令検索・2026年8月12日施行)、所得税基本通達、国税庁の質疑応答事例とタックスアンサーを原文で読んで書きました。出典は末尾に置いています。個別の判断は税理士に確認してください。

目次

条文には、金額の基準が書いていない

日当が非課税になる根拠は所得税法9条1項四号です。ここに全部が書いてあります。

給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの

所得税法第9条第1項第4号(e-Gov法令検索・2026年8月12日施行)

「通常必要であると認められるもの」。金額が出てきません。1日3,000円までとも、5,000円までとも書いていない。だから相場が検索されます。

基準を決めているのは通達9-3。判定は2つある

では誰が線を引くのか?所得税基本通達9-3です。判定にあたって勘案する事項が、2つ挙げられています。

(1)その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2)その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)

ここが一人社長の急所です。(1)は「役員及び使用人の全てを通じて」バランスが取れているかを見ます。社長5,000円・部長4,000円・一般社員3,000円のような、社内の序列です。

一人社長には使用人がいません。比べる相手が社内にいない以上、(1)では何も証明できない。残るのは(2)だけです。だから相場を持ってくるしかありません。「相場は3,000円」という記事が並ぶ理由は、ここにあります。

逆に言えば、一人社長の規程は(2)で殴られたときに耐えられればいいということでもあります。出典のある相場を根拠として残しておけば、それが答えになります。

相場の一次資料はどこにあるか

(2)に使える資料を探しました。無料で中身まで公開されているものは、多くありません。

産労総合研究所「2025年度 国内・海外出張旅費に関する調査」が使えます。調査期間は2025年6〜8月、一般企業3,000社に送って回答は161社。母数は小さいので、そこは割り引いて読みます。

国内出張の宿泊料

支給の型部長クラス一般社員
定額・全地域一律10,425円8,878円
定額・地域区分あり「最高地」(大都市圏等)12,094円11,262円
定額・地域区分あり「普通地」8,990円
実費支給の上限・全地域一律11,314円10,490円
実費支給の上限・最高地13,695円12,889円

海外出張の日当と宿泊料(一般社員・円建て)

地域日当宿泊料
北米5,199円15,706円
中国4,765円13,511円
東南アジア4,841円12,706円

ドル建ての会社では、中国49ドル/99ドル、東南アジア49ドル/99ドル、北米52ドル/107ドルでした。新幹線グリーン車を認めている会社は役員61.5%・部長20.4%・一般社員14.9%(「そのつど判断」を含む)。

正直に書きます。国内出張の「日当」の金額は、この無料ページに載っていません。有料の詳細版にあります。財務省にも『民間企業における出張旅費規程等に関するアンケート報告書』がありますが、PDFの文字情報を機械では取り出せませんでした。国内日当の相場を無料で裏取りするのは、いまのところ難しいです。

裏が取れないなら、取れないまま規程を作るしかありません。そのとき効くのが、次の考え方です。

宿泊料の相場は上の表で分かります。日当は宿泊料より小さい額に置くのがふつうです。宿泊料が8,878円の世界で、日当を1万円にすれば「通常必要」からは遠ざかります。額そのものより、何を見て決めたかを規程と議事録に残すことのほうが効きます。

日当には、もう2つ効果がある

日当の話は所得税だけで終わりません。ここが規程を作る本当の理由です。

  1. 受け取る個人は非課税(所得税法9条1項四号)。給与と違って所得税も社会保険料もかからない
  2. 払う法人は損金。旅費交通費として経費になる
  3. 消費税では課税仕入れになり、しかも帳簿だけで仕入税額控除ができる

3つめが効く。インボイスが要らない

国税庁の質疑応答事例に、はっきり書いてあります。

社員に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分については、課税仕入れに該当するものとして取り扱われ、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
なお、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる「その旅行に通常必要であると認められる部分」については、所得税基本通達9-3に基づき判定しますので、所得税が非課税となる範囲内で、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることになります。

国税庁 質疑応答事例「出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件」(令和7年8月1日現在の法令・通達等)

日当に領収書はありません。それでも控除できる。範囲の判定は、また通達9-3です。所得税で非課税になる線と、消費税で帳簿だけで控除できる線。同じところに引かれています。

帳簿には、通常の記載事項に加えて「帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる仕入れである旨」(「出張旅費」「宿泊費」など)を書く必要があります。摘要欄を空にしないでください。

  • 海外出張の旅費・宿泊費・日当は、原則として課税仕入れになりません(No.6459)
  • 通勤手当は、所得税の非課税限度を超えていても全額が課税仕入れになります
  • 自社が免税事業者なら、そもそも仕入税額控除の話は関係ありません

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相場を超えたら、超えた分がどうなるか

通達9-4が、超過分の行き先を決めています。全部が給与になるわけではありません。

旅行の区分超えた部分の所得区分
職務を遂行するための旅行給与所得
転任に伴う転居給与所得
就職に伴う転居雑所得
退職に伴う転居退職所得
死亡退職に伴う遺族の転居退職所得(9条1項17号で非課税)

退職に伴う引っ越し代が退職所得。あまり知られていません。退職所得は控除が大きいので、給与として受け取るより有利になる場面があります。

出社しない役員の交通費も、日当に準じる

通達9-5に、こういう定めがあります。常には出勤を要しない会社その他の団体の役員・顧問・相談役・参与が、勤務場所へ出勤するために行う旅行の運賃・宿泊料等について。

社会通念上合理的な理由があると認められる場合、出勤のために直接必要と認められる部分に限り、9条1項四号の金品に準じて課税しなくて差し支えない、とされています。

通勤手当(9条1項五号・月15万円が上限)とは別の枠です。常勤ではない役員が、たまに現地へ行く——一人社長やリモート中心の法人で起きやすい形が、ここで拾われています。

日当の金額に条文の基準は無い。だから、同業同規模でいくらが通っているかを知っている人に一度当てるのが早い。見積もりだけなら費用はかからない。

規程に書く項目

適用範囲

役員と使用人のどちらに適用するかを書きます。一人社長でも「役員」と書きます

出張の定義

片道何km以上、または移動時間何時間以上。ここが曖昧だと全部が曖昧になります

日当の額

日帰りと宿泊で分けます。役職別に分ける場合は、その序列も書きます

宿泊料の額

定額にするか実費上限にするか。地域区分を作るかどうか

決めた根拠

参照した調査名と年、その数字。ここが通達9-3(2)の答えになります

支給の手続き

出張報告書の様式と、帳簿の摘要に何と書くか

規程は作って終わりません。株主総会か取締役会で決議して、議事録を残す。規程だけがあって決議が無い状態は、あとから作ったものだと見られます。

よくある質問

一人社長でも日当を出せますか

所得税法9条1項四号は「給与所得を有する者」を対象にしていて、役員を除いていません。所得税基本通達9-5も「会社その他の団体の役員」を明示しています。会社の規模で制限する定めは見当たりませんでした。

日当はいくらまで非課税ですか

上限額を定めた条文も通達もありません。判定は通達9-3の2つの事項を勘案して行われます。一人社長の場合は(2)の同業種・同規模の相場が実質的な基準になります。

領収書は要りますか

日当は実費精算ではないので領収書が出ません。消費税でも、通常必要と認められる範囲なら帳簿だけの保存で仕入税額控除が認められます。ただし帳簿に「出張旅費」などの記載が要ります。

日帰りでも日当を出せますか

条文は「勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をした場合」としていて、宿泊を条件にしていません。規程で日帰りの定義と額を決めておきます。

海外出張でも同じですか

所得税の非課税は同じ枠組みです。消費税は違います。海外への出張・転勤のために支給した旅費・宿泊費・日当は、原則として課税仕入れになりません。


出典

質疑応答事例は令和7年8月1日現在の法令・通達等。所得税法は2026年8月12日施行。2026年9月5日に原文を確認しました。制度は改正されます。

次に読むもの

規程そのものは自分で書けます。作れないのは、自社の数字が相場から外れていないかの判断のほうです。決算と一緒に見てもらう相手を決めておくと早く済みます。

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この記事を書いた人

会社員の頃から副業を始めて5年で副業でのトータル収益1,000万円以上。大きく稼ぐより、コツコツ安定して副業収益を作ることが得意。最初はFXで200万円マイナスを出した経験、会社の代表8年目の財務、税金関係の経験をブログにして書いていきます。

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