法人を作って自宅を社宅にする。調べるとどこにも「家賃の50%」という数字が出てきます。半分は会社の経費にできる、という説明です。本当にそうでしょうか?
国税庁のページを原文で読みました。50%が出てくるのは、社宅が「小規模な住宅」に当たらない場合だけでした。ふつうのマンションやアパートは、たいてい小規模に入ります。式が違います。
賃貸料相当額とは何か
社宅の家賃をいくら役員から受け取ればいいか。その基準になる金額を賃貸料相当額といいます。No.2600の書き出しがこれです。
役員に対して社宅を貸与する場合は、役員から1か月当たり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます。)を受け取っていれば、給与として課税されません。
国税庁 No.2600 役員に社宅などを貸したとき(令和7年4月1日現在法令等)
賃貸料相当額は、役員が払う金額の下限です。これ以上なら給与課税されない。下回れば差額が課税される。それだけの話です。
- 無償で貸した → 賃貸料相当額の全額が給与課税
- 賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている → 差額が給与課税
- 現金の住宅手当、または入居者が直接契約している家賃の負担 → 社宅の貸与と認められず、全額が給与課税
まず「小規模な住宅」かどうかを判定する
計算式は住宅の広さで変わります。判定はこうです。
| 建物の法定耐用年数 | 小規模な住宅といえる床面積 |
|---|---|
| 30年以下 | 132㎡以下 |
| 30年を超える | 99㎡以下 |
区分所有のマンションは、共用部分の床面積を按分して、専用部分の床面積に加えたところで判定します。専有面積だけで見ると判定を誤ります。
木造なら耐用年数22年なので30年以下、鉄筋コンクリートは47年なので30年超。マンションは99㎡、木造アパートや戸建ては132㎡が目安になります。
小規模な住宅の計算式。ここに50%は出てこない
小規模に当たる場合、賃貸料相当額は次の3つの合計です。
- その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- 12円 × その建物の総床面積(㎡)÷ 3.3㎡
- その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
家賃が入る場所がありません。使うのは固定資産税の課税標準額です。「家賃の何割」という言い方自体が、小規模な住宅では成り立たないことになります。
60㎡・家賃15万円で計算してみる
数字を入れます。下の課税標準額は説明のための仮の数字で、実際の物件のものではありません。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| (1) 建物 | 500万円 × 0.2% | 10,000円 |
| (2) 床面積 | 12円 × 60㎡ ÷ 3.3㎡ | 218円 |
| (3) 敷地 | 800万円 × 0.22% | 17,600円 |
| 賃貸料相当額 | (1)+(2)+(3) | 27,818円/月 |
家賃15万円に対して18.5%です。ここを「50%だから75,000円」で計算していたら、月47,182円、年間で566,182円ぶん多く払っていることになります。
小規模でない場合に、はじめて50%が出てくる
132㎡(または99㎡)を超えると式が変わります。自社所有か、借りたものを又貸ししているかで分かれます。
| 区分 | 賃貸料相当額 |
|---|---|
| 自社所有の社宅 | {建物の課税標準額×12%(耐用年数30年超は10%)+ 敷地の課税標準額×6%}÷ 12 |
| 他から借り受けて貸与 | 会社が家主に払う家賃の50%と、上の自社所有の算式で出した額の、いずれか多いほう |
ここでようやく50%が出ます。しかも答えが50%になるわけではありません。「50%と算式の、多いほう」です。広く出回っている説明は、この条件を落としています。
豪華社宅に当たると、算式は使えない
床面積240㎡超のうち、取得価額・支払賃貸料・内外装の状況などを総合勘案して判定されます。240㎡以下でも、プール等の設備や役員個人のし好を著しく反映した設備があれば該当しうるとNo.2600に明記があります。
該当すると上の算式は適用されず、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になります。つまり実勢の家賃です。
賃貸を社宅にするなら、先に貸主の承諾が要る
僕の物件は賃貸です。賃貸を社宅にするとき、計算より先に片づける問題があります。契約の名義です。
No.2600に、こう書いてあります。入居者が直接契約している場合の家賃負担は、社宅の貸与と認められない。つまり個人名義のまま会社が家賃を出しても社宅になりません。全額が給与課税です。
では名義を法人に変えればいいのか。勝手には変えられません。民法612条があります。
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)e-Gov法令検索・2026年6月24日施行
承諾なしにやると、貸主は契約を解除できます。個人契約のまま会社に家賃を払わせるのは、税務では給与課税、民事では解除のリスク。二重に詰みます。
なぜ自分の物件の数字を書かないか
賃貸で賃貸料相当額を出すには、その物件の固定資産評価証明書が要ります。建物と敷地の課税標準額が載っている書類です。
これは大家さんの資産の情報です。床面積と評価額を並べて書けば、物件はかなり絞り込めます。自分の節税の話のために、貸してくれている人の資産を晒すことになる。だからこの記事に僕の物件の面積も評価額も書きません。
上の計算例が仮の数字なのは、そういう事情です。式は同じなので、自分の証明書の数字を入れ替えれば答えが出ます。
固定資産税の課税標準額は、どこで手に入るか
計算に要るのは建物と敷地それぞれの課税標準額。固定資産税評価額とは別物です。ここを取り違えると全部ずれます。
- 自社所有・自分名義の物件 毎年届く固定資産税の納税通知書に載っています
- 賃貸物件 所有者は大家です。借主が取るには、物件所在地の市区町村(東京23区は都税事務所)で固定資産評価証明書を請求します
- 賃貸で借主が請求する場合、賃貸借契約書など「借りている」ことを示す書類の提示を求められるのがふつうです
否認された実例を、裁決の原文で読む
国税不服審判所の公表裁決に、役員社宅が争われたものがあります(平21.10.28、裁決事例集No.78 237頁)。宗教法人の事案で、マイクロ法人の話ではありません。それでも税務署がどこを見るかがはっきり出ています。
法人所有のマンションを代表者に貸与していました。争われたのはマンションのほうではありません。中に置いた家具・カーテン・食器です。法人は「宗教活動用で、代表者に貸したものではない」と主張しました。
審判所は代表者の住まいだと認定しています。挙げられた根拠がこれです。
- 間取り(寝室・台所・リビング・風呂・洗面所)が全体として居住用
- 固定資産税が「居宅」として課税されていた
- 法人のパンフレットやホームページに、施設として載っていない
- 法人の行事がそこで行われていない
- 居住者は代表者ひとり。鍵は2名しか持っていない
- 電気・ガス・水道の契約が代表者個人名義で、料金も個人が支払っていた
- 食事会の案内状の差出人が個人名で、表題が「新宅お披露目のご案内」だった
- 食器の購入先へ「商品は代表者の自宅で使用するが、支払は法人が行う」とメールを送っていた
8つめで決まったようなものです。メール1通が証拠になりました。結末は一部取消し。金額は減りました。ただ、課税されること自体は覆っていません。
調査は固定資産評価額から家賃を計算して突きつけてくる
この裁決には、もうひとつ読むべき記述があります。
本件マンションの固定資産評価額に基づき家賃相当額の計算を行うと月額○○○○円となり、現行賃貸料月額150,000円との差額を代表者に対する給与として課税する旨の指摘を受け、これを理解して自主的に賃貸料を改定した
国税不服審判所(平21.10.28、裁決事例集No.78 237頁)
月15万円だった家賃は、指摘を受けて月25万円に改定されています。No.2600の算式は、調査の現場でそのまま使われている。だから課税標準額を先に押さえておく意味があります。
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家具・光熱費・駐車場はどうなるか
サジェストによく出てくる3つです。順に、分かっていることだけ書きます。
家具・備品
上の裁決がまさにこれです。会社が買った家具を役員に無償で使わせると、経済的利益として給与課税されます。金額の出し方は、審判所がこう示しました。
第三者への貸与実績がないので、物品賃貸業者と同じように取得価額と法定耐用年数を基礎に算定するのが合理的。法人側は「カーテン・じゅうたん・照明器具は建物の一部だから家賃に含まれる」と主張しましたが、採用されていません。
光熱費
No.2600は光熱費に触れていません。賃貸料相当額の話だけです。所得税基本通達9-9が定める「完全に非課税の家屋」も、船舶乗組員の船室、常時交替制の早朝深夜勤務者、看護師・守衛、住み込みの使用人といった限られた職種で、役員社宅は入りません。
裁決では、契約が個人名義で個人が払っていたことが「専ら代表者の居住の用に供されていた」根拠のひとつに使われました。会社が負担すれば社宅の証拠になる、という単純な話ではありません。
駐車場代
No.2600に定めがありません。ここは確認できていないので、書けることがない、とだけ書いておきます。業務用と居住用の切り分けが要る論点です。
小規模かどうかの判定と課税標準額の取り寄せまでは自分でやれる。迷うのは、その先の按分と、社宅規程をどう書くか。マイクロ法人だけを扱う事務所なら、見積もりの段階で相場が出る。
どこから手をつけるか
共用部分を按分して専用部分に加えた床面積で見ます
自社所有なら納税通知書、賃貸なら固定資産評価証明書
小規模なら(1)+(2)+(3)。50%は使いません
個人名義のままだと社宅と認められません
誰にどの条件で貸すか、家賃をいくら徴収するかを書きます
徴収した記録が残る形にします
順番を逆にすると、あとから契約を巻き直すことになります。契約名義が先です。
よくある質問
- 家賃の何割まで経費にできますか
-
小規模な住宅なら「何割」という考え方をしません。固定資産税の課税標準額から賃貸料相当額を計算して、それ以上を役員から徴収します。結果として何割になるかは物件ごとに変わります。
- 持ち家を社宅にできますか
-
自分が所有している家を法人に貸し、法人から自分へ社宅として貸す形になります。売買か賃貸かで扱いが変わり、住宅ローン控除にも影響します。ここは物件と契約次第なので、税理士に見てもらう範囲です。
- 合同会社でもできますか
-
No.2600は「役員」に貸与する場合の扱いを定めていて、会社の種類で分けていません。株式会社でも合同会社でも同じ考え方になります。
- 社宅規程の雛形はどこにありますか
-
国税庁が雛形を配っているわけではありません。書くべきことは、対象者の範囲、物件の条件、徴収する家賃の決め方、退去時の扱いです。賃貸料相当額の計算方法を規程に書いておくと、根拠が残ります。
- 賃貸料相当額は毎年計算し直しますか
-
算式が「その年度の固定資産税の課税標準額」を使うので、課税標準額が変われば金額も変わります。
出典
- No.2600 役員に社宅などを貸したとき(国税庁)
- (平21.10.28、裁決事例集No.78 237頁)国税不服審判所
- 所得税基本通達 法第9条《非課税所得》関係(国税庁)
- 所得税法(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
No.2600は令和7年4月1日現在法令等。2026年9月5日に原文を確認しました。制度は改正されます。実行前に最新のページを見てください。
次に読むもの
社宅まで踏み込む段階なら、法人の申告そのものを見てもらう相手を決めておくほうが早いです。賃貸料相当額の計算を規程に落とすところまでが、ひとつの仕事になります。
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