執筆・監修:ちゃんみ(元・採用責任者。新卒・中途あわせて約500人を書類から最終面接まで担当/法人代表7年/確定申告8年)。この記事の数字と制度は、公式資料を原文で確認した日付つきで書いています。
会社を辞めて起業するとき、失業手当はもらえないと思っている人が多いと思います。就職しないのだから当然だ、と。
実際には、条件を満たせば再就職手当という名前で受け取れます。ただし順番があります。
僕はここを間違えました。定款を先に作ってしまい、作り直しになりました。同じ失敗をする人がいると思うので、条文と公的資料で整理しておきます。
僕が間違えたこと
会社を辞めて、Web制作と買取の2つで独立しました。有給が40日残っていたので買い取ってもらい、ギリギリまで勤めて、退職した翌日にハローワークへ行きました。
ここまでは早く動けていたと思います。問題はその前です。
会社を作る準備を進めていて、登記に必要な定款を先に作ってしまっていました。早く独立したかったので、動けるところから動いていたつもりでした。
起業した人が再就職手当を受け取るには、いつ自営を始めたかが基準になります。そして定款の作成は、その「始めた」に含まれうる行為でした。
結果、定款を作り直すことになりました。手続きが増えただけで済みましたが、知らずに進めていたらもっと厄介なことになっていたはずです。
なぜ順番が問題になるのか
出発点は「失業」の定義です。雇用保険法4条3項にあります。
この法律において「失業」とは、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることをいう。
雇用保険法 第4条第3項(e-Gov法令検索 2026年8月28日確認)
職業に就くことができない状態であることが前提です。ここに自営業が絡むと、扱いがはっきりしています。岡山労働局の案内から引きます。
自営業(準備を含む)を開始する方については、失業の状態を満たさなくなるため、下記のとおりの届出が必要となります。
岡山労働局「~自営開始を予定している方へ~」(令和6年9月。2026年8月28日に原文で確認)
括弧の中が要点です。「準備を含む」と書いてあります。開業届を出した日でも、売上が立った日でもありません。
同じ資料には、こうもあります。
上記の自営準備開始時点で失業給付は支給停止となります。
岡山労働局「~自営開始を予定している方へ~」(令和6年9月。2026年8月28日に原文で確認)
準備を始めた時点で止まります。定款の作成は、会社を作るための準備そのものです。ここが分かれ目でした。
どこから手をつけるか
岡山労働局の資料に、窓口ごとの流れが載っています。そのまま整理します。
自営業(準備を含む)を開始することを先に伝えます。以後の失業給付は行わない旨の説明を受けます
個人なら税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」、法人なら法務局へ登記手続きです
②の書類を持って、再びハローワークの給付課へ
労働基準監督署とハローワークで手続きが必要になります
自営開始日の翌日から1か月以内。事業実態が確認できる資料を添えます
①が先頭にあることが全部です。僕は②の一部(定款作成)を①より前にやってしまいました。
受け取るための条件
順番を守ったうえで、いくつか条件があります。
待期の7日間
基本手当は、受給資格者が当該基本手当の受給資格に係る離職後最初に公共職業安定所に求職の申込みをした日以後において、失業している日(疾病又は負傷のため職業に就くことができない日を含む。)が通算して七日に満たない間は、支給しない。
雇用保険法 第21条(e-Gov法令検索 2026年8月28日確認)
求職の申込みをした日から通算7日は支給されません。この待期が満了する前に自営を始めると、そもそも起点が崩れます。
給付制限がある場合はさらに1か月
自己都合で辞めた人には給付制限がつきます。その場合の条件も、岡山労働局の資料に書かれています。
給付制限期間がある方は待期期間の満了の認定後かつ給付制限期間の初めの1か月間を経過した自営開始日であることが必要です。
岡山労働局「~自営開始を予定している方へ~」(令和6年9月。2026年8月28日に原文で確認)
つまり待期7日を終えて、さらに給付制限の最初の1か月を過ぎてから自営を開始する必要があります。ここを知らずに急ぐと、条件から外れます。
支給残日数が3分の1以上あること
再就職手当は雇用保険法56条の3の就業促進手当の一種です。条文は「厚生労働省令で定める安定した職業に就いた受給資格者」と定め、支給残日数によって扱いを分けています。
早く始めるほど残日数が多く、受け取れる額も大きくなります。ただし早すぎると待期や給付制限に引っかかる。この2つを両立させる位置に、自営開始日を置くことになります。
本店所在地を自宅にしたくない人は、定款を作る前にバーチャルオフィスを決めておく。あとから住所を変えると登記のやり直しになる。法人登記に使えるプランかは公式で確認を。
事業実態を示す資料が要ります
申請すれば通るわけではありません。岡山労働局の資料には、確認書類の例が並んでいます。
- 雇用保険適用事業所設置届(事業主控)
- 各事業における許認可等が確認できる書類、営業許可証、各種免許証等
- 事務所等の賃貸借契約書
- 備品等の購入経費・賃料を証する書類
- 雇用契約書・労働者名簿・賃金台帳・出勤簿等
- 業務委託契約書・請負契約書・フランチャイズ契約書
- 売上等が確認できる領収書・出納帳の類
「事業を始めたつもり」では足りません。実態を紙で示せる状態にしておく必要があります。同じ資料には「事業継続性が見込まれない事業形態であった場合や再就職手当が不支給となった場合には、『就業手当』を案内できる場合もあります」との記載もあります。
1人会社なら、定款・登記の費用より設立後の顧問料のほうが効いてくる。マイクロ法人向けに設立から決算までまとめた定額パッケージがあるので、先に見積を取っておく。
会社を作る手続きそのものについて
順番さえ守れば、あとは手続きです。僕は会社設立にマネーフォワードを使いました。
定款の作成から登記書類の準備まで画面の指示に沿って進められて、本来なら税務署や役所に行く必要があるところをWeb申請で済ませられました。
独立したてで時間が惜しい時期に、平日の昼間に窓口へ行く回数が減るのは大きかったです。設立したあとの会社情報がそのまま会計に引き継がれるのも、二度手間が減って助かりました。
個人事業として始めるなら、税務署に開業届を出す形になります。提出期限の考え方は開業届の記事に書きました。よく見る説明と国税庁の案内が違っていた話です。
どちらにしても、ハローワークへの申し出が先です。書類を作り始める前に窓口へ行ってください。
- 定款を作っただけでも「準備」になりますか
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岡山労働局の資料は「自営業(準備を含む)を開始する方」を対象とし、自営準備開始時点で支給が停止するとしています。準備に当たるかどうかの個別の判断はハローワークが行います。作る前に相談してください。
- 個人事業で始める場合も同じですか
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同じ流れです。②の届出先が税務署への開業届になります。
- 再就職手当の申請期限はいつまでですか
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自営開始日の翌日から1か月以内です。事業実態が確認できる資料を添えて提出します。
- 準備を始めてしまったあとに気づいたら
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自己判断で進めず、ハローワークの給付課に状況を伝えてください。届出の順番が前後した場合の扱いは窓口が判断します。
- 不支給になったらどうなりますか
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資料には、事業継続性が見込まれない事業形態や不支給の場合に「就業手当」を案内できる場合もあると書かれています。
- 会社設立と個人事業、どちらが有利ですか
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再就職手当の要件としては、どちらも「自営の開始」として扱われます。有利不利は税金と社会保険の話になるので、別に判断してください。
順番さえ守れば手続きは進みます。ただ会社を作ったあとは、決算と申告が毎年ついてきます。ここは個人の確定申告とは別物です。
設立の前に一度相談しておくと、決算月の決め方や役員報酬の出し方まで含めて設計できます。
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この記事で確認した条文と資料
- 雇用保険法(e-Gov法令検索)
- ~自営開始を予定している方へ~(岡山労働局)
- 就職促進給付(ハローワークインターネットサービス)
- 「開業届は1か月以内」より、青色申告承認申請書の締切
条文は2026年8月28日にe-Gov法令検索で原文を確認しました。労働局の資料はPDFの本文を取り出して読んでいます。手続きの詳細は地域で運用が異なる場合があるので、お住まいの管轄のハローワークで確認してください。
有給を40日買い取ってもらって、退職の翌日にハローワークへ行くところまでは我ながらうまくやったと思います。その手前で定款を作っていたのが全部でした。急ぐ方向を間違えていました。
